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元祖渋谷系女王、野宮真貴「私が歌うべき曲は、まだまだたくさんある。」

野宮サムネ

90年代、渋谷の文化を築いたアーティストがいました。当時の音楽シーンを席巻した渋谷系ムーブメントの中心的存在にいた、
ピチカート・ファイヴ。

彼らはポップカルチャーをこよなく愛し、その目利きによって再評価された過去の音楽や映画は数え切れません。

膨大な情報量を元に作り出す彼らの音楽やアートワーク、そして、それらにインスパイアされたファッションの若者たちが渋谷の街中に溢れました。

2001年に惜しまれつつ解散し、あれから14年。

ピチカート・ファイヴ3代目ボーカリストである野宮真貴さんがニューアルバム「世界は愛を求めてる。~野宮真貴、渋谷系を歌う。~」をリリースしました。

“元祖渋谷系の女王”

と呼ばれた野宮さん自らが、渋谷系とそのルーツとなる名曲を歌うカバー集であるため、オリコン・ウィークリー・アルバムランキングで、ジャズ部門1位(2015年11月23日付)を獲得しました。

今回の取材では、あらためて渋谷系とはどういうものか?

そして今渋谷系を歌う理由。

当時の渋谷や、これからの渋谷に至るまでを、野宮真貴さんはどのように感じているか?

そうしたことを聞くために、野宮さんと本作の音楽プロデューサーである坂口修さんにインタビューを行いました。

 

野宮さん、坂口さんが考える”渋谷系”とは?ニューアルバムの選曲過程から見えてきた渋谷系というもの。

 
渋谷新聞
ピチカート・ファイヴをきっかけに古今東西の音楽をたくさん聴いてきたので、今回のアルバムの選曲には、自分のルーツをたどるような想いも勝手ながら抱いてしまい、聴き終えた後とても幸せな充足感がありました。

野宮さん
ありがとうございます。

今回のアルバムの曲は、坂口さんと二人で一緒に選びました。選曲していたら、明るくて愛を歌う歌が自然と多くなったんです。

坂口さん
野宮さんが何かを感じる曲を選ばないと意味がないと思いました。

渋谷系と言われていた時期に野宮さんとずっと一緒にいたので、そのときに聴いていた曲や、影響を受けた曲を選びました。

野宮さん
20年たって渋谷系と呼ばれていた時代の音楽を聴いてみると、改めてすごくいい曲が多いなと気づきました。

当時のピチカート・ファイヴ、フリッパーズ・ギターだけでなく、そのルーツとなる過去の曲から、スタンダードナンバーとして歌えるものを選びました。

バート・バカラック、ロジャー・ニコルスという洋楽だけでなく、日本の古い曲にも影響を受けているから、それらも含めて選曲しています。

渋谷新聞
松田聖子さんまで入っているところに野宮さんらしさを感じました。

ピチカート・ファイヴの小西康陽さんが作った観月ありささんの「パリの恋人/東京の恋人」も入っていましたね。

野宮さん
まさに渋谷系の雰囲気の曲ですよね。

小西くんは当時から女性ボーカルの方たちにたくさん曲を作っていますが、まだ私が歌ったことのない曲を入れたくて選びました。

渋谷新聞
野宮さんの声で再び聴けてとても嬉しいです。

その一方で、今この曲を聴くと、パリのテロ事件が起きてしまった事で、当時とは違う感情も同時に沸き起こってしまいます。

小沢健二さんの「ぼくらが旅に出る理由」にしても、大人になって聴き返すと「生と死」のようなテーマ性まで感じてしまい、涙がこぼれてしまいました。

野宮さん
自分も時間がたって、たくさんのことを経験している分、歌詞が持っている意味を改めて深く感じるところがありました。

渋谷新聞
最後の曲「世界は愛を求めてる。」も、歌詞にぐっときました。

この曲は、バート・バカラック「WHAT THE WORLD NEEDS NOW IS LOVE」の日本語カバーですが、小西さんによる訳詞なんですね。

野宮さん
小西くんは本当に訳詞が素晴らしいんですよ。

2曲目に収録したバージョンは、スウィング・アウト・シスターのコリーン・ドリュリーと英語でデュエットしていますが、日本語でも歌ってみたいなと思いました。

訳詞が存在していなかったので、「これは小西くんしかいない!」と思ってお願いしたところ、引き受けてくれたんです。

渋谷新聞
「愛しあう心がこの世には必要かもね」という歌詞。

小西さんがピチカート・ファイヴ時代からよく引用されていた「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくしてそれに執着することである」という吉田健一氏の言葉にも通じると思ったんです。

女性としての美しいライフスタイルを大事にしている野宮さんが歌うからこそ強さを増して心に届きました。

また「かもね」という照れ屋さんぽい表現が小西さんらしくて、「今聴くべき、ピチカート・ファイヴの新曲だ!」と一人で興奮しました。

野宮さん
「かもね」は小西くん的ですよね(笑)言い切らないところがね。

解散から14年たって、初めて小西くんと一緒に作った曲になります。

渋谷新聞
渋谷系音楽を考える時、歌詞がとても重要なのだとお二人の話を聞いて感じています。

坂口さん
渋谷系音楽って、究極は、最初に「いい詞」があって、そこに「いいメロディー」が乗ることだと思います。

特に小西さんの詞であるとか、小沢くんの詞であるとか、単体で素晴らしいものに、過去の素敵な音楽をエッセンスとしたメロディーが乗って、さらにそれを歌のうまい人が歌うと、みんなの心に響き渡るんじゃないでしょうか。

野宮さん
自分のルーツを含めて、そうした曲をスタンダードナンバーとして歌い継いでいくことが私の役割だなって思っています。

坂口さん
野宮さんの歌声は言葉を素直に聴かせてくれるので、いい歌詞であれば、みんなの心に強く突き刺さるんです。

実はこういうことを歌ってたんだ!って気づかせてくれるんですよ。

渋谷系音楽をスタンダードなアレンジにすることで、いつの時代にも聴ける音楽として残ってくれるといいですよね。

渋谷新聞
なるほど、それが野宮さんのLIVEタイトル「渋谷系スタンダード化計画」ということですね。


掲載元:UNIVERSAL MUSIC JAPAN


掲載元:SPACE SHOWET MUSICチャンネル
 

音楽だけではない、ファッションや映画、ライフスタイルとしての渋谷系ムーブメントについて。

 
渋谷新聞
野宮さんのBillboad LIVE2015のメインテーマに「フレンチ渋谷系」と名付けていますが、その理由をお聞かせください。

野宮さん
4月にパリへ行って、今年はエレガントなステージにしたいなと思った事がまずひとつ。

それと、初めて買ってもらったレコードがミシェル・ポルナレフ「シェリーに口づけ」で、そこから好きになった音楽がフレンチポップスだったという事も理由にあります。

そしてもうひとつ、私たちが考える渋谷系に大事な事として、古いフランス映画や音楽から影響されたビジュアルの話があります。

それこそフランスのゴダールの映画やゲンズブールの音楽からインスパイアされていて、それらの影響は切っても切り離せなくて。

だから渋谷系のムーブメントって、どうしても音楽だけでは語りきれないんですよね。

渋谷新聞
デザイナー信藤三雄さんのアートワークには、いつも驚かされました。

渋谷系アーティストのビジュアルには欠かせない存在で、フリッパーズ・ギターや、オリジナル・ラヴも信藤さんでした。

今回のアルバムも信藤さんがデザインなんですね!

坂口さん
写真集的な感じで。大きさも懐かしいピチカート・サイズなんですよ(笑)
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野宮さん
90年代は、小室哲哉さんの音楽やコギャル・ファッションがメインストリームでしたが、渋谷系は、どっちかというと自分だけが知っているという楽しみ方の側面が強くて。

実際、渋谷系のファンの子たちの間では、ボーダーにベレー帽や白いコットンパンツのようなファッションが流行ったり、パリをイメージするようなカフェでお茶をしたり。そんなライフスタイルを楽しむ側面がありましたね。

渋谷新聞
そんな渋谷系らしいビジュアルやライフスタイルの象徴として、お二人が思い浮かぶ渋谷のリアルな場所はありますか?

坂口さん
アニエス・ベーが、まさにそうでしたよね。

渋谷公会堂にむかう坂道に面したところにお店があって、そのあたりをフレンチな服を着て歩く子がたくさんいたし。お店の中に音楽がいつも流れていましたよね。

野宮さん
映画のポスターも貼っていましたよね。

アニエス・ベーって音楽や映画と密接な関係のあるブランドなんですよ。

当時の渋谷の洋服屋さんって、お店に一緒にレコードが置いてあったりしたんですよね。APCとかもね。

坂口さん
あとはシネマライズとかね。

当時、映画館も面白かったですよね。こだわりのものを上映する単館系。

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野宮さん
渋谷系って、音楽だけでなく映画も再評価してたよね。リバイバル上映したりね。

坂口さん
「ナック」とかね。「カジノロワイヤル」とか。渋谷系周辺のメンバーで上映権を買って公開したりしてましたよ。

渋谷新聞
ピチカート・ファイヴがいなかったら、埋もれたままの映画もたくさんあったはずですよね。チラシに渋谷系アーティストのコメントが当時たくさん載っていたのを憶えています。

坂口さん
「万事快調」とかね。ピチカート・ファイヴの曲のタイトルにもしたりね。そうやって映画も音楽も一緒に盛り上がったりしてましたね。

渋谷新聞
こだわりの上映企画をしている渋谷の映画館では、今でも小西さんをよくお見かけしますよ。

野宮さん
そうなんですか!?小西くんって、1年に何百本って決めて映画を観てるもんね。

坂口さん
ほぼ毎日、観てるんじゃないですか?

シネマヴェーラに通ってらっしゃるみたいですよ。

シネマヴェーラ590

野宮さん
渋谷が面白いのは、映画にしろ、音楽にしろ、自分だけが知っている楽しみを持っているマニアな人が集える場所があるところですよね。

メインストリームから外れていても、自分のセンスを信じられる場所はいつまでも無くならないで欲しいなぁ。

渋谷新聞
いい曲を探して、選んで、好きになってくれる人にきちんと届けるという、野宮さんの音楽活動にも通じる話ですね。

野宮さん
そうですね。

「こんないいものもあるんだよ!」って伝えていたのが渋谷系のアーティストの役割でもあったんで。

坂口さん
そういう語り継いでいくスタイルが大切ですよね。

いいもの知っちゃったから、ここで終わらすのは勿体無い。

だったら、みんなにもお裾分け出来たらいいなっていうことかもしれないですね。

渋谷系って、東京のひとつの街だけで流行っていた音楽ジャンルとして認識されたくないんですよ。哲学的に言うと、そういう、語り継いでいく創作スタイルこそが渋谷系ってなると面白いと思いますね。

 

リアルな街としての渋谷。渋谷の未来について思うこと。

 
渋谷新聞
渋谷は現在再開発が進んでいて、これから10年ぐらいかけて駅前に大型商業施設が完成する予定です。

渋谷新聞は渋谷に関わる様々な人たちと話すことが多いのですが、最近大手資本チェーン店がますます渋谷に多くなってきて、昔のような面白さが減ってきたという話を聞くことが多くなりました。

野宮さん
渋谷ばかりじゃなくて、私の住んでいる街も再開発で、チェーン店ばっかり。

つまんなくなっちゃいますよね。街の特徴がなくなっちゃう。どこ行ってもね。

坂口さん
さっき話したシネマライズも無くなってしまうんですよね。悲しい話ですが。

渋谷新聞
建て替えのために、いったんパルコも無くなります。

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坂口さん
渋公もそうですよね。

野宮さん
どんどん、何もかもが無くなってしまう。
記憶にあるものが、無くなってしまう。

渋谷新聞
地方なんて、均質化のスピードがもっと早いですからね。

個人の面白いお店も生き残れなくて、資本力のあるお店だけが残っていきます。

坂口さん
モール系ですら、さらに新しいモールが出来て、どんどん古いのはシャッターが閉まって、どんどん中央集権的な話になっていきますからね。

音楽チャートもそうですもんね。流行ってるのはこれ!って聴かされて、他のものは知る機会もなくて…

渋谷新聞
そんな中でも、こういう場所は渋谷に残り続けて欲しいと思うものはありますか?

野宮さん
若い人たちに必要な音楽やファッションや映画、そういうカルチャーは変わらないといいですね。

渋谷は、若い人たちが集まる街だから。

渋谷新聞
HMVが渋谷に復活しましたね。盛り上がって欲しいです。

HMV590

これからも続く、渋谷系スタンダード化計画

渋谷新聞
≪渋谷系スタンダード化計画≫はこれからも続いていくのですか?

野宮さん
このプロジェクトはずっと続けようと思っています。

渋谷系、そしてそのルーツを探していくと、まだまだいい曲が眠っています。

だから私が歌うべき曲がまだまだたくさんあるんです。

坂口さん
ピチカート・ファイヴが渋谷を越えてワールドワイドで活動していたように、場所と時間を越えてプロジェクトを進められたらいいなと思っています。

過去だけでなく、もしかしたら、その先にある渋谷系進化形と言われているような、過去と共存できる”今”を代表する素敵な曲もみつかるかもしれないですしね。

渋谷新聞
音楽以外の活動も考えられていますか?

野宮さん
音楽以外でいうと、今、赤い口紅のプロデュースをしています。そのための美と健康といったファッションエッセイを書いたりしています。

渋谷新聞
ピチカート・ファイヴの化粧品のCMソング(「スウィート・ソウル・レヴュー」)にときめいた世代なので、そのような活動にワクワクします。

渋谷系アーティストってファッション誌に出ることが多かったですよね。

憧れのアーティストたちの今のライフスタイルがとても気になるので、音楽以外での活動も期待しています!

野宮さん
ふふふ(笑)いろいろ考えていますよー。

渋谷新聞
先日、坂口さんとのトーク・イベントでお話されていた、ディープな渋谷系ファン向けの勉強会も、ぜひやっていただきたいと思っています。

野宮さん
そんなこと言いましたね(笑)
そういう人、意外と多いんですねー。

渋谷新聞
終電の時間までお酒飲みながら、お二人のお話を聴きつつ、当時の貴重映像を観る会とか、どうでしょう?

野宮さん
やっぱり、そういうの観たいんだー(笑)
ありますよぉ~~。

渋谷新聞
ぜひ!お願いしますっ!

野宮さん
企画してくださいよ!渋谷新聞で。
やっぱり渋谷でやったほうがいいよね?

渋谷新聞
それはもう!
渋谷を楽しくするには、音楽の力が必要不可欠なんで。

坂口さん
渋谷を盛り上げて、世界を盛り上げていければいいですよね!

我々も芸歴が長いので、野宮さんがハブになって、たくさんミュージシャンもゲストで呼べたら楽しいですね!

音楽だけじゃなくて、ファッションとか、いろんな講演会をやってみるのもどうですか?

野宮
映画とかもね。
そういう文化的なことを渋谷でやれたらいいですよね。
 

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<取材協力>
ユニバーサルミュージックジャパン
http://www.universal-music.co.jp/nomiya-maki

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