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ハチ公喫煙所前で365日ありがとうと叫び続けた男性。

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込山洋さん。

渋谷新聞は毎日必ず見かけるこの人のことがずっと気になっていた。

2015年3月末から1年間、毎日ハチ公前喫煙所付近で清掃活動と利用者への声がけを行っていた。

しかも、昼前から夜までずっと。

日によっては終電を過ぎることもある。

今年の3月末、そんな彼を急に見かけない日が続いた。

そして4月のとある日、また彼を見かけるようになった。

ずっと聞きたかったことを彼にインタビューしてみた。

何の目的で?これは仕事か?収入は?

 

何の目的で?


この質問に対する答えはこうだった、

「ハチ公前は世界中の人々が集まる日本を代表するような場所じゃないですか、そのハチ公前がタバコのポイ捨てに溢れて汚れていたら、日本のキレイなイメージが台無しになると思う。だから清掃したり声がけをやっているんです。」

彼は、今から約1年前に九州から上京。
上京の目的は新たな事業を始めるため。

15年前まで東京で働いていたこともあり、久しぶりの上京に際して懐かしの渋谷を訪れた。
今も昔も変わらぬ日本を代表する待ち合わせスポットのハチ公前であったが、彼には2つの変化が目に映った。
一つ目は昔よりも、多くの外国人観光客で賑わっているということ。
そしてもう一つが、ハチ公前喫煙所からはみ出してタバコを吸う人々の多さと、地面に残るタバコのポイ捨ての山。

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彼はその汚いハチ公前広場を見た瞬間に悲しくなり、すぐに清掃活動をはじめたという。
それが2015年の3月。

「はじめは1週間限定で、ハチ公前の清掃をやろうと思ったんです。今思えば甘い考えなのですが、1週間朝から晩まで掃除を続けていれば、喫煙者の方々も理解してくださり、何か変化が起こると思っていたんです。」

ところが、多い日には約30万人が往来するハチ公前広場、1週間では何の手応えも感じなかったという。
ここで、彼の人生が動いた。

「手応えを感じるまでもう少し続けてみよう。」

新しい事業を始める、そのために上京した当初の目的は、しばらくお預けとなったのだ。

それから毎日ハチ公前喫煙所付近で清掃と声がけをすることが日課となった。

結果、もう少し続けてみようという彼の活動は暑い夏を超え、寒い冬を越えて春まで365日続いた。

なぜ1年も続いたのか?
それについて彼はこう話した。

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「いつしか話しかけてくれたり応援してくれる人達が増えてきたんです。そういう人達に頑張ってねとか応援してますとか言われると、すごく有り難くて。生活も大変なので、とりあえず年末までは頑張って、それで辞めようと思ったのですが、やはり応援してくれる人達がいたので1年間続けることになりました。」
 

これは仕事か?収入は?


気になる仕事や収入について聞いてみた。

まず、この清掃&声がけ活動自体が、何か行政やNPOからの支援を受けている活動なのかを尋ねると、個人的なボランティアであるとの回答。

では、ここで活動しているとき以外の収入を得る活動、仕事は何か聞いてみたところ、1年間無職だったという。

それでは、家賃や食費などの生活費は?という質問に対しては、

「残りわずかな貯金を食いつぶしています。あと、私を応援してくれている人たちが、時折缶コーヒーや食べ物を差し入れしてくれるので本当に助かっています。」

約1年前、込山さんの上京目的は、新しく事業展開をするためであった。

それまで彼は福岡で会社経営を行っていたのだが事業に失敗、借金を背負い、家族にも愛想を尽かされた。
鬱になり何もできない状態に陥ったこともあったが、何とか手元にあるわずかな資金で事業をはじめ、再起を図ろうと上京したのだった。

「事業に失敗し、家族をはじめ色んな人に迷惑をかけてきた。やっと立ち上がれるようになった時、これからは人の役に立つ人間になりたいという気持ちが強くなった。もしかしたら、この活動をやっている根っこには、過去の償いみたいな気持ちがあるのかもしれません。」

1日の食事も1食までに絞り、何とか1年間無収入で活動を続けてきたが、いよいよ収入がないと生活できない状態になったこともあり、今年の3月末を持って活動を終了したという。

これが冒頭触れた急に見かけなくなった理由だった。

活動を辞め、4月からドライバーの仕事を少しづつ始めたという。

そんな彼が、取材当日また今までのようにハチ公前に立っていた。

 

なぜまた戻ってきたのか?

 
「1年間活動をしていた時に、多くの方々に応援の声をかけてもらい、その中にはLINEやTwitterでつながるようになった人たちが数百人できたんです。私が活動を辞めてから数日後、その人たちからこんな画像が送られてきたんです。」

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「込山さんが居なくなってから、またハチ公前がポイ捨てで溢れているよ、と。」

そんな現状を知ったこと、そして相変わらず応援してくれる人々がいることを実感し、込山さんは約10日間の活動休止後また復活したのだという。

今度は、ドライバーの仕事をしつつ空いている時間は極力ハチ公前に立ち続けるようにするそうだ。

「特に夕方16時以降から深夜にかけては」と込山さんは話した。

朝から16時までは、区の清掃業者さんが喫煙所を含めハチ公前広場を定期的に清掃活動しているそうなので、割と綺麗な状態を保ちやすいのだが、16時以降は誰も清掃する人がいなくなる。

渋谷は、会社就業時間終了後一気に繁華街への人の流入が多くなる街であるため、夕方から終電までの間はハチ公前喫煙所は人が溢れ入りきらないほどになり、お酒を飲んだ人々のマナーのないポイ捨ても増えるのである。

この時間帯は特に活動を続けていきたいという。

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昼間12時頃の喫煙所。
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夕方6時頃の喫煙所。

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夕方から終電にかけては酔っ払いも多く、絡まれることも少なくないのでは?

そんな質問を投げかけてみたところ、やはり多かったという。

はじめは清掃だけを行っていた込山さんだが、そのうち喫煙者の方々への声がけを始めるようになった。

「おタバコは喫煙所内で吸ってください!」

ところがこの声がけが予想外の反応を引き起こしたという。

一部の喫煙者は、白いワイシャツにスラックスのサラリーマン姿で声がけをしている込山さんを疎ましく思い、ワザと目の前でポイ捨てしたり、タバコを投げつけてきたり、誰だお前?と食いかかってきたのだ。

そこである時から、渋谷区にお願いし清掃活動ボランティア用のタスキを貸してもらうことにしたという。

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確かに、ある時からタスキをかけ始めたことを渋谷新聞も覚えている。

それまでは、どこの誰かも分からないサラリーマン風の人物だなと思っていたが、行政のクリーンキャンペーンを行う人物だったんだと理解できた記憶がある。

しかし、行政関係者かどうかは、食ってかかる人にとってはあまり意味のないことだったのだろうか、相変わらず絡まれることは絶えなかったようだ。

そんな悩みもある中、込山さんはあることに気づき声がけの中身をガラっと変えたのだという。

やめてくださいから、ありがとうへ

 

当初は、ハチ公像の後ろ側でタバコを吸っている人に対し、

「すみません、あちらの喫煙所で吸っていただけないでしょうか」

と個別に話しかける声がけもしていたという。
その時の相手の反応は決まってこう。

あたりを見回し、喫煙所の外でタバコを吸っている人を見つけ指差し、

「何で自分だけ言われなきゃいけないの?」

こうした反応を多く受け、込山さんは喫煙者に対し平等に効く言葉がないかを考え始めたそう。

そこで込山さんは個別に声がけするのではなく、踏み台にたち、喫煙所に向かって笑顔でこう叫び始めた。

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「喫煙所のご利用ありがとうございました^^行ってらっしゃいませー」

彼曰く、コンビニや居酒屋のトイレに貼ってある、

「いつもキレイにご利用いただきありがとうございます。」

と同じ考え方に変えてみようと。
喫煙所を使用してもらいたいというメッセージを、守っている人にも、そうでない人にもに平等に伝えるためだ。

この感謝の言い回しに変えてから目に見えた変化が現れるようになったという。

声をかける時も満面の笑顔であり、両手で手を振りながら「行ってらっしゃいませー」と叫ぶ。

人々はその挨拶に会釈を返すようにもなってきた。

彼の声は、ハチ公像の後ろまで届く。
そのため、インタビューをした時にはひどい声のかすれようであった。

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取材を終えた翌日以降も、込山さんは毎日ハチ公前にいる。

彼の周りには差し入れをするおばあちゃんや、声をかける若い男女、日本に住む外国人が気軽に声をかけ応援していく姿も目にした。

彼の活動や経緯を知ることで、考えさせられることは多い。

マナーの問題や清掃のシステムだけではない。

この記事を読んでくださった人の中にも、ポイ捨て問題以外の何かが胸の中につっかかったり、自分なりに思ったことがあるかもしれない。

幾つかあるが、例えば声がけの中身のくだり。

ボランティアのような正しい行いや善意は、それが自分に関わりのない範囲で行われていれば、人はそれを少し離れた距離感で眺め、頑張っているなと共感しやすい。
まさに、黙々と清掃活動を行っていた時がそうであろう。

しかしその正しい行いを、人が人に求めようと呼びかけた時に、ガラッと受け取られ方が変わる。
全ての人がそうではないが、そういうことは起こり得る。

込山さんが、いつまでハチ公前喫煙所付近に居続けるかはわかりませんが、彼の活動に少しでも共感できる方は、一度彼に話しかけてみてはと思った。

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<取材協力>
込山洋さん(こみやま ひろし)

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