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坂道から音楽が生まれる街。『渋谷音楽図鑑』 -前編-

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記:岸 浩史
写真:門井 舜

CD市場が全盛だった90年代、渋谷系と呼ばれる都市型の音楽ムーブメントがありました。当時の渋谷の宇田川町には世界一と言われるほど沢山のレコードショップが集まり、音楽を愛する若者たちは古今東西の音源を掘り起して、膨大な情報を取り込みながら、新しい音楽、ファッション、アートを生み出し、街の景色を塗り替えていきました。

そして2017年。この都市型ポップスの系譜を受け継ぐ新世代のアーティストたちが次々と頭角を現し始めました。Suchmos、cero、D.A.N.、never young beach、Yogee New Waves…等、勢いのあるバンドの活躍が続いています。ストリーミング配信で音楽を聴くスタイルが主流になり、多くのレコードショップが渋谷から姿を消してしまったにも関わらず、若者たちは音楽を求めて渋谷に集います。昔も今も、一体、渋谷の何が彼らを惹きつけるのでしょうか?この問いへの一つの解答となる本『渋谷音楽図鑑』が、太田出版から刊行されました。

渋谷新聞は、発売に先駆けて東京カルチャーカルチャーで行われた3人の著者によるトークイベントを取材しました。渋谷系の発端となるフリッパーズ・ギターを世に送り出した音楽プロデューサー牧村憲一さん、同じく音楽プロデューサーの藤井丈司さん、音楽ジャーナリスト柴那典さんの3人が、音楽の街として渋谷が機能し続ける理由に迫ります。

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3つの坂の物語

「渋谷の街を高いところから見下ろしたことがあるかい?」

この牧村さんの一言から『渋谷音楽図鑑』の制作が始まったと言います。なんと、この本、地形的な観点から渋谷の文化の独自性を解き明かす画期的な解析本であり、牧村さんは「坂と川と谷こそが渋谷の主役である」と提唱します。

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公園通り、道玄坂、宮益坂という3つの坂道があり、渋谷の街は、これらの坂が谷底のスクランブル交差点を目掛けて川のように流れ込む地形で出来ていると牧村さんは語ります。

 

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公園通り

 

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道玄坂

 

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宮益坂

 

牧村さん
「自分のやってきたことが、どうも坂と関係があるなと感じていました。」

「坂の物語を通して、僕の今までの特別な体験を寄せることが出来ると思いました。」

201708牧村さん

 

この本の中で牧村さんは東京オリンピックの翌年1965年まで遡り、音楽ビジネスの当事者として渋谷で起きた音楽史を紐解いていくのですが、新しい音楽を生み出す若者たちはいつの時代においても坂のある場所に集まっていたという、フレッシュな発見のある切り口で渋谷の物語を綴っていきます。公園通りの小劇場「ジァン・ジァン」、道玄坂のロック喫茶「BYG」、宮益坂の青山学院大学の音楽サークル「Better Days」等、過去を振り返ると歴史のターニングポイント毎に、地下水脈のごとく潜伏して次の時代の音楽の礎を育む若者たちのたまり場が坂道から浮かび上がってきます

 

牧村さん
「振り返ると渋谷には、常に3つの層があるのではないかという仮説を持つようになりました。メインカルチャー、サブカルチャー、そしてその下にもうひとつ、アンダーグラウンドの層がある。これは目に見えない。その現場に行かないかぎり。渋谷の音楽は常に、アンダーグラウンドの地下水脈で養われているんです。

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ロック喫茶「BYG」

 

 

■スクランブル交差点とインターネットの関係

3人の話は、坂が下り降りる先の谷底、スクランブル交差点へと進んでいきます。なぜここに世界中から人が集まるようになったのか?この疑問に対して、交差点を定点観測してきたという柴さんは、街とインターネットの関係に着目します。

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柴さん
「ハロウィンが最も象徴的ですが、スクランブル交差点が、人が集まるハレの場所になりました。その大きな理由は2010年代に入って、インターネットの使われ方が変わったからです。」

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柴さん
「00年代までのインターネットはベッドルームで使うもの、家で楽しむものでした。それが、スマートフォンとSNSの登場によって、徐々に外で使うものに変わっていきました。一方で、00年代の渋谷のスクランブル交差点では、02年のW杯をきっかけにサッカー日本代表の試合後にファンが集まる場所となったり、「みんなでマトリックスの格好をして写真を撮る」という「マトリックスオフ」が行われるなどインターネットで知り合った人たちが集まって写真を撮って遊ぶという行為が行われるようになっていきました。それがスマートフォンとSNSの普及した10年代に一気に拡大し、ハロウィンへと発展していったのだと考えます。」

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201708ハロウィン

 

この00年代と10年代のインターネットの使われ方の変化が、音楽シーンにも大きく影響していると柴さんは分析します。00年代は、音源の入手も制作も家のPCで済んでしまったことで、人と会う必要を失ってしまった。つまり、都市型ポップスの系譜が途絶える<鎖国>の時代であったと振り返ります。しかし、スマホの登場で人々が外に出る機会が増え、渋谷の街に地下水脈が再び育ち始めました。

 

柴さん
「〇〇系という日本特有の音楽ジャンルを括る呼称がありますが、この〇〇には大抵、音楽に関係ない言葉が入る特徴があるんです。原宿系、アキバ系、ビジュアル系…。中でも、渋谷系という言葉が廃れないのは、渋谷の街が持っている吸引力が今以ってあるということの象徴だと思うんです。

 

『渋谷音楽図鑑』は回顧録で終わることなく、これからの音楽、そして渋谷を担う人たちに開かれた本なのです。坂と川と谷の街で、歴史は循環しながら新しい物語を紡いでいく。そのことを意識すればするほど、この街を今後も観測し続けたくなるし、坂道から聴こえてくるであろう新しい音楽に耳を澄ませたくなります。取材班はトークショーの後日、柴さんと担当編集の林和弘さんにインタビューを申し込み、渋谷の音楽シーンの現状や都市開発が進む中での未来展望をお聞きしました。渋谷の街に関わる全ての人たちと共有したいお話は、後編に続きます!

 

PS.
そもそも都市型ポップスってどんな音楽なの?という方には、『渋谷音楽図鑑』の第六章「楽曲解析」をおススメします。藤井丈司さんがはっぴいえんど、シュガー・ベイブ、山下達郎、フリッパーズ・ギター、小沢健二、コーネリアスの代表曲を譜面に起こしながら、これらの楽曲に通底するポイントを解析する、これまた新鮮なポップス論になっています。トークショーでは藤井さんのギターと歌による聴きどころの実演も披露され、会場は大いに盛り上がりました。

2017藤井さん

 

<取材協力>
太田出版
http://www.ohtabooks.com/publish/2017/07/04123250.html

東京カルチャーカルチャー
http://tcc.nifty.com/

 

<書籍紹介>

渋谷音楽図鑑 単行本(ソフトカバー)

牧村 憲一 (著), 藤井 丈司 (著), 柴 那典 (著)

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記: 岸 浩史(きし・ひろし)
広告代理店勤務、コミュニケーションディレクター。漫画家としても活動中。中二の春、TBSドラマ『予備校ブギ』主題歌のフリッパーズ・ギター『恋とマシンガン』に衝撃を受ける。

写真: 門井 舜(かどい・しゅん)
広告代理店勤務。デジタル部門を経て、現在はリアル起点で企画を考えるプロモーション部門に所属。趣味は映画と読書。心の底からインドア派。

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